折り合いがつかない
仕事が苦しい
初めてそう思った。
就職して9年目になるが、こんなに掛けたくない電話をすることも、こんなに無気力な夜も初めてだった。
長年ご贔屓にしてくださるひとりのお客さまがいる。
出会いからはもう6年ほどで、わたしの母よりも歳上。
若いのに本当に頑張ってるといつも褒めてくださり、いつも新しいこと、場所、知識を沢山教えてくださる方。
娘のように察してくださり、わたしもできる限りの全てのご要望にお応えしたいと思って、今までずっと担当をしてきた。
しかし今回初めて、ご要望にお応えできないかった。
会社として、今回の要望は受けられないとのことだった。
9年目になり、割と地位も上がって、会社のことが末端の頃よりもわかるようになってきた。
取引先のこと、利益のこと、効率のこと、会社として目指すべき方向性のこと。
だから今回上司が首を横に振ったことも理解はできた。
理解できたと同時に、一番大切であると考えていた『お客さま』は会社にとっては一番ではないのかと改めてそう感じたことにショックだった。
そしてそれを一番大好きな人に伝えなくてはいけないサラリーマンな自分にも嫌気がさした。
一生で一番掛けたくない電話をかけたときのお客さまのお返事は、本当に、本当に優しかった。
板挟みにさせちゃったわね、本当にごめんね。
あなたのせいじゃないのよ、あなたがいつも良くしてくれていることも、今回も頑張ってくれたことも、わたしには、全部、わかっている。
悲しいけれど、それでもどうにもならないことってあるのよね。
あなたの悲しい声が一番悲しいから、もう頑張らなくていいからね。本当にごめんね。
大好きな人に、こんなことを言わせている自分に腹が立った。悲しくなった。どうしようもない感情でいっぱいになった。
もっと最善の策はなかったのかと今もずっと考えている。
だれが悪いわけでもなく、本当に折り合いがつかなかった。どうしようもないほど、折り合いがつかなかった。
コンプライアンスっていうのは人を救う便利な言葉であり、人をこんなにも悲しくさせる言葉でもある。
今もずっとずっと終わりのないことを考えている。
このことは一生忘れないだろう。